やさしい時間の流れるお寺 泉区「阿久和山観音寺」

のんびりとした住宅街が広がる泉区新橋町。
ゆるやかな坂道と、季節ごとに色を変える木々が並び、どこか時間がゆっくりと流れているような落ち着いた街並みです。

その一角に、白壁の山門と静かな佇まいが印象的な「阿久和山(あくわざん) 観音寺(かんのんじ)」があります。
古くから地域の人に親しまれ、いまも暮らしのそばにある、やさしいお寺です。

やわらかな空気に包まれる境内へ

長い石段を上がり山門をくぐると、風に揺れる木々の音と、鳥の声。
日常の慌ただしさがすっと遠くに押しやられ、自然と深呼吸したくなるようなやさしさに包まれます。

花壇の花々、手入れの行き届いた庭の緑。静かに佇む石仏たち。

訪れたものをやわらかく包み込む、あたたかな空気に満ちています。

江戸初期から続く、徳川ゆかりの古刹

観音寺が建立されたのは1615年(元和元年)。
京都伏見や関が原、大阪夏の陣での軍功が認められ、阿久和村を知行地に下賜された徳川家旗本・安藤治右衛門正珍が、先祖の冥福を祈るために創建した由緒あるお寺です。

鎌倉三十三観音霊場第二十三番札所としても知られ、巡礼で訪れる人々が静かに手を合わせる姿も印象的です。

秘仏・聖観世音菩薩像―行基作と伝わる古像

観音寺のご本尊である聖観世音菩薩像は、奈良時代の名僧・行基の作と伝わる秘仏です。

1本の桧(ひのき)から丁寧に彫り出された仏さまで、高さは約80センチ。表面には鉈(なた)で削った力強い彫跡が残り、時を経た木肌の温もりがそっと伝わってきます。
普段は本尊・釈迦牟尼仏の後ろの厨子に安置され、33年に一度だけ開帳される貴重な尊像として、大切に守られてきました。

前回の御開帳は2014年におこなわれたため、次にそのお姿に会えるのは2047年。
長い年月をかけて大切に受け継がれてきた秘仏であることを、あらためて感じさせてくれます。

スリランカから託された、金色の涅槃像

境内の仏殿には、金色に輝く全長4メートルの涅槃像(ねはんぞう)が安置されています。この涅槃像は1998年の仏殿落慶に合わせて安置されたもので、仏教国スリランカから寄贈された仏舎利(ぶっしゃり=お釈迦様の遺骨)とともに祀られています。

柔らかな金色に包まれた寝釈迦の姿は、訪れる人の心を静かに整えてくれます。

木肌の温もりを残した五百羅漢像が堂内をぐるりと囲みます。

どの像も穏やかな表情で佇んでいて、静寂そのものが呼吸しているような深い落ち着きがあります。

静かに佇む―観音寺の仏足石

境内の片隅には仏足石(ぶっそくせき)が静かに置かれています。

仏足石は、お釈迦さまの足跡を象った石で、足裏のめでたい文様が刻まれています。
庭の緑とよく馴染み、素朴ながらも温かい存在感があります。

季節によりそい、自然が迎えてくれる境内

境内には庭園があり、四季の色が静かに移り変わっていきます。

春はしだれ桜と芝桜、初夏のアジサイ、秋の紅葉。
季節を感じながら散策でき、心穏やかなひとときを送ることができます。
石の橋を渡ると、丘の斜面には白い羅漢像が段状に祀られ、中央のお釈迦さまを囲むように整然と並びます。

光のさす方向によって表情が変わり、明るい庭園の風景に溶け込む開放感が魅力です。

地域と共にある“開かれたお寺”

観音寺の大きな特徴は、“地域の日常と自然につながるお寺”であること。

境内を通って遊びに来る子どもたちの声が、やさしい日常をつくっています。
観音寺の隣には保育園が併設され、園児たちは境内の園庭で遊んだり、境内を通ってお寺にやってくることもあります。
この保育園の始まりは、現在のご住職のお祖母さまが、農繁期の地域の子どもたちを預かっていた温かな思いにあります。

観音寺では、本堂を使った“寺ヨガ”もおこなわれています。
午前中のやわらかな光の中で、呼吸を整え、心をゆっくりとほぐします。

初めてでも参加しやすく、若い夫婦や主婦層にも人気のイベントです。
それ以外にも、お琴の発表会が月1回おこなわれているそうです。

御朱印で感じる、旅の小さな記念

本堂では御朱印をいただくことができます。落ち着いた筆づかいの墨書きは、観音寺の静かな空気がそのまま宿っているようで、手に取ると自然と心が整います。
散策の途中でいただく御朱印は、その日一日の記憶をそっと残してくれる、小さな旅の証です。

観音寺は、400年前から変わらずこの地にあり続け、のんびりとした街並みに寄り添ってきました。

手入れの行き届いた庭で息づく季節の花々、そして訪れた人をそっと包む静かな空気。
観音寺には、どこか懐かしいやさしさがあります。
忙しい日々の中でふと立ち止まりたくなったら、ぜひのんびりと訪れてみてください。きっとまた、やさしい風が迎えてくれるはずです。

阿久和山観音寺
住所:神奈川県横浜市泉区新橋町1157
アクセス:相鉄いずみ野線「弥生台駅」から徒歩13分または「弥生台駅」からバス「観音寺前」下車徒歩約2分、相鉄いずみ野線「緑園都市駅」から徒歩約16分
TEL:045-811-1405
駐車場:あり

※記載情報は取材当時のものです。変更している場合もありますので、ご利用前に公式サイト等でご確認ください。